「将棋の子」【デジタルプロフェッショナル学科】
私は独身時代、日曜日の午前10時半から始まる
NHK将棋トーナメントの放送が毎回楽しみでした。
自分自身は観戦専門で将棋がまったく強くないのですが、
プロの将棋棋士が将棋を指すのをみて感心したり、
勝負が終盤でひっくり返ったりするのを興奮して見ていました。
AIの技術が進展して、機械がプロの棋士の力を上回っても、
将棋の魅力が失われることはないと思っています。
ドラマを見ているようで面白いのです。
プロの将棋棋士になるためには将棋連盟の奨励会で3段リーグを勝ち上がり、
4段に昇段しなければいけません。
全国から集まった猛者の中からすごい倍率で勝ち上がらなければいけない、
すさまじい競争の世界です。
それに奨励会には年齢制限があって、26歳までに4段に上がれなければ、
自動的に奨励会を退会することになります。
年齢制限は、若い人たちの未来のために別の道を取るように差し向ける救いの手なのか、
はたまた恋焦がれた夢を強制的に断念させる残酷な手なのか、わかりません。
タイトルの『将棋の子』(大崎善生著)は
2001年出版のかなり古い本ですが、今でも読み応え十分な本です。
この本は4段に昇段できなかった、途中で夢をあきらめざるを
得なかった「将棋の子」たちにスポットを当てています。
地方や同年代の中では敵なしで抜群に強い子どもたちでも、
すべての人が藤井聡太さんのように勝ち続けられるわけではありません。
誰かが勝つということは、裏から見れば、誰かが負けるということです。
人生の一時期をすべて将棋に注いだ人が、夢破れて、
その後、どういう人生を歩んだのかを、この本では追跡しています。
自分の好きなものにすべてを注ぐ情熱的な生き方に、
たとえ成功しなかったとしても、私は敬意と憧憬の念をいだきます。
ただ、
「外国語をマスターする」
「プログラミングをマスターする」
といった、努力すれば誰でも叶う夢のほうが平和的でいいと思います。
競争だと、努力したからといって、相手が上回れば望む結果が出ないですし、
相手がミスすればいいという話にもなってしまうので。
ただ、将棋から勝ち負けの要素を奪ったら、
ちっとも面白くなくなるでしょうね。